Top 記事一覧 コラム ママとパパの心を癒す思い出を作るために|Soramusubi 田中さん夫妻

ママとパパの心を癒す思い出を作るために|Soramusubi 田中さん夫妻

お空へ旅立った子どもたち“お空っ子”への贈りものとして、お別れした子どもたちの居場所となるスペースやお香立てなどさまざまなメモリアル品をお届けする活動をしているSoramusubi。小さくしてお空へ旅立つ赤ちゃんのためのお洋服を寄付する取り組みもされています。活動を行っている田中さんご夫婦は、2020年に待望の第一子である「まおちゃん」を授かりました。しかし、妊娠6か月のときに重度の心疾患が原因で、死産となりました。その経験をきっかけにご夫婦二人でSoramusubiを立ち上げ、活動を開始されたそうです。

田中さんご夫婦に「まおちゃんとの思い出」だけでなく、活動を始めたきっかけやメモリアル品を届けるまでの苦難などについて、SORATOMOサイトを運営する一般社団法人SORATOTOMONI代表の石堂がお話を伺いました。

田中梓・淳/Soramusubi

大阪府在住。大学時代に知り合い、長い付き合いを経て結婚。2020年、死産を経験。2021年にSoramusubiの活動を開始し、現在は数多くのメモリアル品をわが子とお別れをしたママ・パパへ届ける活動をしている。

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石堂雅子/一般社団法人SORATOTOMONI代表理事

東京都在住。2023年に先天性横隔膜ヘルニアによって、新生児死を経験している。当時、赤ちゃんの病気やお別れに関する情報が限りなく少ないと感じたことをきっかけに、一般社団法人SORATOTOMONIを立ち上げた。WebサイトSORATOMOを通して、さまざまな情報を当事者だけでなく、社会全体へ向けて発信している。

石堂の経験を掲載した「当事者の声 その時#07」はこちら

まおちゃんとのたくさんの思い出

石堂:妊娠中のお話について聞かせてください。

:妊娠がわかった時は、夫も喜んでくれて。本当に幸せの絶頂で、その先に辛い出来事が待っているなんて思いもしませんでした。ある日の妊婦健診で、まおちゃんに心疾患が見つかったんです。健診に行くたびに状態が良くなることはなく、常に現実を突きつけられて……。皆さん健診を楽しみにしていると思いますが、私の場合はあまり楽しみにできたことはなかったです。コロナ禍だったので、毎回一人で不安になりながら通いました。孤独を感じ、辛い日々を過ごしました。

石堂:周りに相談するのもはばかられますよね。心疾患の指摘を受けてからお別れまでの間、ご夫婦でどのように過ごされましたか?

:夫婦間では気を遣うことなく、面と向かって話をしましたね。まおちゃんについて話す時間が作れたことは、よかったと思います。二人でゆっくり散歩をしたり、たわいもない会話をしたり……。出産後は、まおちゃんを家に連れ帰って三人で水入らずの時間を過ごしました。まおちゃんの状態が悪くならないように冷房を強めに効かせて、夏なのに毛布をかぶって川の字になって寝たり、三人で一緒にケーキを食べたり。あたたかな家族の時間を過ごせたのが、いい思い出です。

:私も、出産からお見送りまで後悔なく過ごせたと思っています。限られた時間で必死に情報を集めて、「まおちゃんのために何をしたいのか」を整理しました。まおちゃんのためにも自分のためにも、やりたいことが全部できたと思います。写真をたくさん撮ったり、たくさん話しかけたり、動画を撮ったり。たくさんの思い出を残すことができました。

石堂:今、赤ちゃんのお洋服を寄付されてると思いますが、その時もまおちゃんにお洋服を作ってあげたんですか?

:はい。まおちゃんのために作ったお洋服が、初めてのお洋服です。作り始めてみたら、意外と熱中してしまって。「お洋服の寄付をやりたいな」という気持ちになりました。

Soramusubiの始まり

Soramusubiの「天使の想い箱」

石堂:まおちゃんのためのスペースから『天使の想い箱』ができたんですよね。作られたきっかけについて教えてください。

:まおちゃんの居場所がシンプルだったので、「少し寂しいな」と思ったのがきっかけです。いろいろと調べてみても、お仏壇のような形式的なデザインであったり、大人向けのものや手の届かない金額のものが多く、なかなか僕たちが望んでいるようなスペースがなかったので、作ってみようと思い立ちました。

石堂:お二人で設計図から考えて、DIYで作られたんですか?

:はい、まずは自分で計算するところから始めましたね。そして専用ソフトで図面を書いて、見よう見まねで材料を切って、パーツを作って組み立てました。「かわいらしいこどもっぽさ」をイメージしていたので、それを土台に「羽根をつけてみよう」とか「背面に丸棒を置けば、光が差し込んで幻想的になるのではないか」等、次第にアイデアが浮かんできて。それらをイメージしながら描いて、今の『天使の想い箱』になりました。

石堂:スペースをSNSに掲載後、「欲しい」というお声もあったそうですね。そのような反応をもらってどう感じましたか?

:とても嬉しく感じたと同時に、自分自身の気持ちの変化が大きかったように感じます。スペースを作ることで、他の誰かの気持ちを変えることができるのなら、頑張ってみたいと思いましたね。全部まおちゃんがいたからこそ行動できたことなので、喜んでくれていると思います。まおちゃんが作ってくれた繋がりを大切にしたいと強く思いました。

活動がグリーフケアに

石堂:活動を始めて、気持ちの変化はありましたか?

:似た経験をした方との新たな出会いもあり、この活動がまおちゃんから与えられた使命のように感じるようになりました。それに、スペースがあるおかげで、まおちゃんと共に生活していることを実感できています。お花を添えて可愛くしたり、一緒に季節のイベントを楽しんだりすることで、気持ちが軽くなりました。その変化は夫が一番感じている気がしますね。

石堂:淳さんは、梓さんの変化をどう感じましたか?

:毎日取り乱して泣いている妻を見るのは、本当に心が痛みました。Soramusubiの活動を始めたことで、同じように我が子とのお別れを経験した方との関わりが増え、お友達もできるようになりました。そのお友達の体験談をよく話してくれるようになりましたね。日に日にSNSで共感してくれる方が増え、それがとても嬉しかったのだと思います。それらの小さな積み重ねが大きな変化になっていったのかなと思います。

石堂:『天使の想い箱』が届いた方の感想を見て、どのように感じていますか?

:先日、『天使の想い箱』をお迎えしてくれた方のお宅に伺って、初めてお友達のスペースを見ました。「まおちゃんとお揃いのおうちなんだ」と、改めて実感して。その子がその場所にいるように「はじめまして。やっと会えたね」と会話をしました。不思議な気持ちでしたが、とても幸せな時間を過ごすことができました。

:後日、お手紙で「自分の満足いくようなスペースがなかなか見つからず、諦めてた時に『天使の想い箱』に巡り会って、救われたような気がしました」と言ってもらえて、それを見て二人で号泣しました。そういった言葉が活動の原動力になっていますね。

:スペースのお写真が届いたり、大切なお子さんのことをお話してくれたり、普通のママやパパ同士のような会話ができることも、とても嬉しいですね。

石堂:当事者の方の想いを聞くことで、梓さん自身のグリーフケアにもなっているんですかね?

:それは強く思いますね。私もひとりじゃないと思えるし、お会いしたママやパパもきっとそうだと思います。まおちゃんが結んでくれた大切な繋がりだと強く実感しています。

:SNSを通してたくさんの声をいただきますが、我が子とのお別れは、人によって向き合い方が様々なんですよね。家族や夫婦でも全く違っていることもあり、驚きました。特に夫婦間でのすれ違いによって、当事者の心に新たな傷が加わることは本当に悲しいですね。

石堂:淳さんは、どうして夫婦間のギャップが生まれるのだと思いますか?

:男性は身体の変化がないので、どうしても女性に比べて実感が湧きづらいですよね。実感を持てる前に、お空へ旅立ってしまうところが大きな差なんだと思います。

石堂:確かにそうですよね。週数が経ってお腹も大きくなれば見た目でもわかるし、胎動があればわかるし。実感が生まれにくいっていうのはあるのかもしれないですね。

:当事者にならないとわからないことは多くあると思います。周囲の方が、流産・死産によってどれだけ心が傷つくかを知らなくて、意図せず傷つける声かけをしてしまうんでしょうね。もっと当事者の気持ちを知ってもらえるよう、情報発信にも力を入れたいと思っています。

お空の子と共に生きるための一助になる活動を

石堂:いろいろとお話を聞かせていただきありがとうございます。最後に、今後Soramusubiをどのように届けていきたいか、教えてください。

:皆さん、「自分の子に何もしてあげられなかった」っておっしゃるんですが、そのように感じるだけでも十分想ってあげられていると思うんです。これからも自分の子にしてあげられることはたくさんあるし、辛い想いを抱えながら、毎日を頑張って生きている。皆さんが「ひとりじゃない」と思ってくれるといいなと思います。

:Soramusubiは、活動を継続することを目標にしています。まおちゃんと一緒に、長く活動していきたいなと思います。

:1つ目は、我が子とお別れをする当事者の世界を知ってもらうことです。お別れを経験した方や、そのような世界を知っている方は、自分の周りで起きた時の接し方が変わると思うんですよね。だから、僕たちの取り組みを当事者だけではなく、当事者ではない方たちにも知ってもらいたいと思います。

2つ目は、当事者の方へ向けて。一歩ずつ前を向いて歩いて行く方法はメモリアル品だけではないと思うので、これからも、お空の子と一緒に生きていくための一助になれるような取り組みをしていきたいなと思います。


インタビューを通して、Soramusubiを立ち上げた田中さんご夫婦の温かな人柄や、まおちゃんとの思い出、そして、活動にかける熱い想いが伝わってきました。お別れから4年が経った今でも、まおちゃんとの繋がりを大切にしており、その想いをSoramusubiの活動の原動力に変えて努力されているのだと強く感じました。また、「当事者の世界を社会に知ってもらうこと」も大切だと改めて実感しました。今回の対談をきっかけに、お互いに手を取り、赤ちゃんとお別れをしたママ・パパだけでなく、広く社会へ知ってもらえるような活動を行っていきますので、これからも応援よろしくお願いします!

(写真=Soramusubi提供/取材・文=SORATOMOライター 小野寺ゆら)


この記事は、2024年4月に取材した際の情報で、現在と異なる場合があります。
当事者の経験談を元に構成しており、同じお別れを経験した方に当てはまるものではありません。
不安な症状がある場合は、医療機関の受診をおすすめします。
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