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早期流産(妊娠12週未満の流産)

「早期流産」と診断され、こちらを訪問くださったあなたへ。
ここでは、早期流産という現実に直面した「その時」に知っておきたい情報をまとめています。

妊娠初期について

市販の妊娠検査薬や医療機関での尿・血中のhCG値検査による陽性判定では「妊娠の疑い」扱いとなり、医療機関の超音波検査で胎嚢を確認することで「妊娠確定」となります。

妊娠5~6週を目安に胎嚢の中の胎芽や心拍を確認し、妊娠9週(妊娠3か月半ば)でようやく「胎児」と呼ばれます。

妊娠初期のこの時期は流産の可能性が高く、3〜4人に1人が流産を経験するという報告もあります。なかでも妊娠12週未満の「早期流産」は全ての流産のうち、約80〜90%を占めます。

「早期流産」とは?

医学的には、胎芽・胎児がおなかの外では生きていくことができない、妊娠22週未満に妊娠が終わることをすべて「流産」と定義されています。

そのうち妊娠12週未満の流産を「早期流産」とし、以下の二つに分類されます。
【自然流産】
自然に胎児の成長が止まり妊娠が終了すること
【人工流産】
なんらかの事情によって妊娠の中断を選択すること

症状別にみる流産

【進行流産】
流産が進行して、出血や下腹部痛といった自覚症状が出現している状態。
【稽留流産】
胎児の発育が停止し心拍が確認できない状態。出血や下腹部痛といった自覚症状が認められず、一方でつわりなど一部の妊娠症状が継続している場合もある。そのため医療機関の診察で発覚することが多い。

進行状態からみる流産

【完全流産】
胎嚢が完全に排出された状態。
【不全流産】
子宮内に組織の一部が残ってしまう状態。
医療的処置が必要となる。

化学流産

化学流産(化学的流産)とは、妊娠検査薬が陽性となったにも関わらず、胎嚢を確認できない状態。医学的には妊娠確定前の事柄と判断されるため、流産とは診断されない。

異常妊娠は流産ではなく「疾患」

子宮内膜以外の場所に着床してしまう「異所性妊娠(子宮外妊娠)」や、胎盤を作る組織が異常に増殖してしまう「絨毛性疾患(胞状奇胎)」。これらは流産ではなく異常妊娠のため「疾患」扱いとなります。

早期流産の原因

早期流産の原因の多くは胎児側にあり、70~80%は胎児の染色体異常によるといわれています。受精した瞬間にその結果は決まっているとされ、これは夫婦の染色体が正常でも起こります。

妊娠12週未満の自然流産は、どんなに注意深く生活をしたとしても避けることのできないものばかり。妊娠に気づかないタイミングでの食事や運動、飲酒、喫煙、服薬といった生活習慣にも原因はないと言われています。

流産後の処置について

医療的処置が必要と診断された場合、「待機管理法(自然排出)」と「流産手術(子宮内容除去術)」の2つの方法から、病状や医療機関の方針によって処置を選択します。

待機管理法(自然排出)

メリット

「自然の流れに任せる」ことができる。
お別れの時間をゆっくりと過ごすことができるため、心の整理がつきやすい。

デメリット

いつ排出が起こるのか分からず、不安な日々を過ごさなければならない。
子宮内から排出されたのか自己判断が難しく、経過観察中に医学的判断で手術が必要となる場合もある。

流産手術(子宮内容除去術)

メリット

手術から日常生活への復帰を計画的に進めることができる。
流産を複数回繰り返す場合などは、胎内組織から流産の原因を探る検査を行うこともある。

デメリット

麻酔を使うことで、精神的・肉体的なダメージがある。
ごくまれに子宮が傷つき感染を起こすトラブルが生じる可能性がある。


新しい術式「吸引法」の広がり

かつて日本では、流産手術といえば「掻爬(そうは)法」が主流でした。子宮の状態が把握しやすいというメリットがある一方で、母体への負担が大きいという懸念点もありました。

そこで、より母体への負担が少ないとされている「吸引法」が広がりを見せています。吸引法には「電動吸引法(EVA)」と「真空手動吸引法(MVA)」の2種類があり、一般的には真空手動吸引法(MVA)のほうが吸引力を調整できるため、より痛みが少なくダメージが残りにくいと言われています。全ての医療機関が対応しているわけではないので、希望をする場合は病院へ確認しましょう。

待機管理法の流れ

待機管理法では、普段通りの生活をしながら定期的に受診し、自然に排出されるのを待ちます。

▽定期的な受診
1〜2週間毎に超音波検査で子宮内の状態を確かめながら「完全流産」となるのを待ちます。

▽自然排出
周期的な腹痛とともに、塊状の血液や袋状の子宮内の組織が全て出てきます。ほとんどの場合が、通常の生理よりやや強めの痛みや多めの出血があります。激しい出血(夜用のナプキンからすぐに溢れるくらい)や我慢できないほどの激しい痛みを伴う場合は、医療機関に相談しましょう。

▽内容物の提出
排出された内容物は病理組織(顕微鏡)検査をするため、可能であればビニール袋などに入れて受診時に持参しましょう。夜間に排出した場合も、急いで提出する必要はありません。体調や気持ちが落ち着いた、翌日の診療時間に受診してください。

子宮内の組織が排出され、完全流産となるまでの目安
「稽留流産」と診断されてから<2週間>75〜90%
「不全流産」と診断されてから<1週間>60〜80%
「不全流産」と診断されてから<2週間>80〜90%
参考:「早期流産の処置の方法の選択」|公益財団法人 日本産婦人科医会 |2017

<流産手術への切り替え目安>
一般的には1ヶ月以上自然排出に至らなかった場合、流産手術への切り替えが検討されます。
また、組織の一部が子宮内に残ってしまった場合や、子宮内感染を起こしたり出血が続いたりする場合にも、流産手術が選択されます。

流産手術の流れ

初期流産の手術は、麻酔をかけて行なわれます。手術時間は約15〜20分。医療機関によって日帰り手術ができるところもあれば、1泊入院して慎重に進めるなど、妊娠週数や医師の方針によって様々です。

▽手術の予約
手術や麻酔などの説明を聞き、日程を予約します。
術前検査を行います。緊急手術の場合は当日となることもあります。

▽術前処置(子宮頸管の拡張処置)
手術前日または当日に、超音波検査で最終判断をします。その後、水分を吸って徐々に太くなる棒状の頸管拡張剤(ラミナリア、ダイラパン、ラミセルなど)を子宮頸管(子宮の入口)に挿入し子宮頸管をゆっくり拡張します。

▽子宮内容除去
麻酔後、器具を子宮内に入れて胎嚢を取り出します。
※麻酔は静脈麻酔や局所麻酔、笑気麻酔などいくつかの種類があり、組み合わせて使うこともあります。どの麻酔を使うかは医療機関の判断になります。

▽帰宅後の過ごし方
麻酔の影響が残っているため、自分で車や自転車の運転はNG。医療機関の指示に従って安静に過ごしてください。抗生物質などの処方薬が出される場合もあります。出血が止まらない場合や明らかな不調がある場合は、医療機関に相談しましょう。

早期流産後の過ごし方

一般的には、1~2週間のうちに子宮からの出血が止まり、1~2ヶ月後には生理が再開すると言われています。突然の大量の出血(夜用のナプキンからすぐに溢れるくらい)や激しい痛み、発熱などがあった場合はすぐに医療機関へ連絡をしてください。

眠れない、気分の落ち込みが激しいなどの精神的な症状も、遠慮せず医師に相談しましょう。

早期流産時に利用できる制度

傷病手当金

身体的、精神的に不調が続く場合には、傷病手当金制度の対象となるケースもあります。
医師に「傷病手当金支給申請書」を記入してもらい、勤務先の担当窓口に申請しましょう。
※勤務先の健康保険に加入している女性が対象。国民健康保険は対象外。

医療保険

自然流産か人工流産か、また手術の内容などによって異なりますが、一般的な流産手術であれば、手術を保障する保険の支払対象となりますので、お確かめください。

※産後休業について

残念ながら、今の法律では早期流産は産後休業の対象にはなっていません。
しかし、流産後1年以内(妊娠の週数は問わず)に限り、医師の診断書があれば休業することができると母性健康管理措置に定められています。

次の妊娠について

一般的には「次の妊娠への影響はない」と言われています

早期流産を経験された多くの方が「もう妊娠できないのでは?」「妊娠しにくくなってしまったのでは?」と不安を覚えます。しかし、早期流産が直接的に不妊の原因になるとは考えられていません。

適切な処置・自然排出後に生理が回復すれば、次の妊娠を望むことが可能です。すぐにでも次の妊娠をしたいという方も、いつかまた新しい命を迎えたいという方も、そのときに向けてゆっくりと心身の健康を取り戻していきましょう。

よくある質問

早期流産後、行政への特別な手続きはあるの?

行政に申請する手続きなどはありません。

痛みはどのくらい?痛み止めは服用できるの?

個人差がありますが、一般的に重い生理痛くらいと言われます。痛み止めは処置の妨げになる場合もあり、医師の判断を必要とするため事前に相談をしましょう。

排出された胎嚢や赤ちゃんはどうなるの?

医療機関側で適切な取り扱いを受けた後、専門の業者に引き取られます。ご家族への引き渡しはありません。

受け取った母子手帳はどうしたらいいの?

返納する義務はありません。短い間でもママになった喜びや赤ちゃんがいた日々の記憶と共に手元に置いておくことができます。

流産手術にはいくらかかるの?

稽留流産などの妊娠継続が不可能な場合の費用は保険適用(3割)となり、自己負担は3〜5万円程度となります。

一方、早期人工流産(初期中絶)の場合は自費診療となるため、自己負担は平均して10〜15万円程度となります(薬剤、術前検査などで別途発生する場合もあります)。

流産手術後の性生活は?

状況によって異なるため、医療機関の指導を仰いでください。

<参考文献>

「流産・切迫流産」|公益財団法人 日本産科婦人科学会 |2018
No.99 流産のすべて|公益財団法人 日本産婦人科医会 |2017
1.早期流産の処置方法の選択|公益財団法人 日本産婦人科医会|2017 
2.早期流産に対するインフォームドコンセントの注意点|公益財団法人 日本産婦人科医会 |2017
人工妊娠中絶ができる条件とは何ですか?|公益財団法人 日本産婦人科医会|2023.11.30取得
流産・死産等を経験された方へ|こども家庭庁|2023.11.30取得
傷病手当金|全国健康保険組合(協会けんぽ)|2023.11.30取得
病気やケガで会社を休んだとき|全国健康保険組合(協会けんぽ)|2023.11.30取得


医療監修協力

蓬田 裕 先生(鎌ヶ谷バースクリニック/医師、医学博士、周産期専門医、日本産婦人科専門医、臨床遺伝専門医)

Youtube:産婦人科医よもぎチャンネル 世界一わかりやすく解説
X(Twitter):よもぎ☘️産婦人科医


この記事はSORATOMO編集部が独自に調査し編集したものです
記事の内容は2023年11月の情報で現在と異なる場合があります
※記事内の画像や文章の転用を禁じます

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